介護業界で、人手不足に苦しむ企業が増えています。令和4年度の介護労働安定センターによる介護労働実態調査では、介護事業所における人材の「不足感」(「大いに不足」+「不足」+「やや不足」の合計割合)は、69.3%とされています。職種別で見ると、訪問介護員が85.3%と最も多く、次いで「介護職員」の69.3%と続きます。
従業員が不足する最大の理由は、採用が難しいことです。同調査では、人材不足を感じる事業所の9割が「採用が困難である」と回答しており、その原因として「同業他社との人材獲得競争が厳しい」ことや、「他産業に比べて、労働条件等が良くない」ことを挙げています。
日本の人口の高齢化が進む中、介護に対する需要が著しく高まっていることはいうまでもありません。にもかかわらず、介護の仕事はきついといったイメージが伴い、介護職の年収は他の職に比して低めであることなども相まって、なかなか十分な応募を確保することができないという悩みを伺います。
介護職に関しては、職場の人間関係、利用者やその家族とのトラブルといった問題もあり、離職率が高まるという面もあります。募集をかけても十分な人気がなく、他方で離職率も高いということで、厳しい状況に追い込まれた施設や会社が、外国人雇用に眼を向けています。そのニーズは、年々高まってきています。
外国人雇用にはさまざまなプラス面があります。特に大きいのは、若く体力があり、やる気にあふれた人材を確保しやすいと言う点があります。日本人の労働市場では、少子高齢化の傾向も相まって、特に若手の中から介護職を目指す人を見つけることは、以前より困難になってきています。
この点、海外から日本を目指してくる外国人労働者の中には、最初から介護職を目指して知識を有する人もあり、また、日本に来てからもうまく制度を利用することで、知識や経験を積んでいくことが可能であることから、業界全体にとって貴重な人材源と言ってよいでしょう。
日本に働きに来る外国人労働者は、必ずしも全部が最初から介護に関する知識や経験を有する人ばかりではありません。また、介護に関する我が国独自のルールもあり、これらを身につける必要があります。この点、我が国には、後に述べるように介護の業界に後見できるいくつもの在留資格等があり、これをうまく活用することで、外国人労働者を育成していくことができます。
また、一旦知識経験を積んだ労働者は、使用者にとって貴重な戦力です。いかにそういった労働者を定着させて、長期的に企業に貢献してもらうかは、企業にとって重要な課題と言ってよいでしょう。労務管理コストという観点からも、経験を積んできた労働者が途中で抜けるといった事態は、大きな損失です。認められている各種の資格を十分に理解して、中長期的な労働力を確保できるかが、この業界における外国人雇用の勝敗を左右するといってもよいでしょう。
上で述べたとおり、介護業界で外国人を採用・雇用していくにあたり、特に理解していく必要が高いのが在留資格の問題です。外国人の方には、厳密には違うのですが、ビザと言った方が話が通じます。
これまで介護の分野で就労可能な在留資格は、在留資格「介護」、特定活動「EPA介護福祉士」、技能実習「介護」でしたが、2019年に新たに特定技能「介護」が加わり、特に特定技能の採用例の伸びには目を見張るものがあります。出入国在留管理庁による統計では、特定技能「介護」で就労する外国人の数は、令和3年12月末5155人、同4年12月末1万6081人、同5年6月末で2万1915人となっていることがわかります。
在留資格「介護」は、外国人が介護施設で介護職として働くための就労系在留資格で、日本の公私の機関との契約に基づいて介護福祉士の資格を有する者が介護又は介護の指導を行う業務に従事することができます。
「介護」の在留資格を得るためには、介護福祉士の国家資格を取得していることが必要です。介護福祉士の国家試験に合格しなければならず、また、高い日本語能力が必要とされるため、たくさんの人材を見つけるのは困難です。採用企業が、介護福祉士養成学校の費用を負担するケースも見られます。
他方、在留資格「介護」の在留期間は、5年、3年、1年あるいは3か月ですが、在留期間の更新回数に制限はないので、事実上、永続的に就労が可能になるというメリットもあります。配偶者や子の帯同が認められているのも「介護」の大きな特徴です。それだけ、有能な人材を引きつけるメリットもある在留資格です。
EPA(経済連携協定)に基づき、日本の介護施設で就労及び研修をしながら、日本の介護福祉士の資格取得を目指す在留資格になります。経済連携協定とは、国と国の経済連携を図り、親密な関係を築くための協定で、これらの方を送り出す国はインドネシア、フィリピン、ベトナムのみです。
この制度は、もともと、「介護福祉士」の国家資格取得を目的としているため、一定の期間内に資格を取得できなければ帰国しなければなりませんでした。しかし、特定技能が設けられ、ここに移行できるようになったことから、さらに5年間の就労が可能となりました。EPA介護福祉士候補者として、4年間適切に就労・研修に従事して護福祉士国家試験で一定以上の成績を上げれば、無試験で特定技能の在留資格を取得できるのです。
外国人技能実習制度は、日本で培われた技能、技術または知識を開発途上地域に移転することを目的としており、技能実習「介護」は学歴・資格などの要件は基本的にありません。1年目は「技能実習1号(技能等を修得する活動)」、2~3年目は「技能実習2号(技能等に習熟するための活動)」、4~5年目は「技能実習3号(技能等に熟達する活動)」となっており、合計で最長5年の滞在が可能です。学歴・資格などの要件がないことから採用が容易な面はありますが、育成に時間がかかるといえます。
介護職の技能実習生に要求される要件としては、日本語能力要件と職歴要件があります。
まず、日本語要件ですが、介護職で技能実習を行うためには、技能実習指導員や介護施設利用者とのコミュニケ−ションが取れなければいけないため、日本語の能力が一定程度あることが要件となります。技能実習第1号では日本語能力試験のN4に合格している者その他これと同等以上の能力を有するものであること、技能実習第2号では同試験のN3合格等の要件を満たす必要があります。
職歴要件としては、団体監理型技能実習の場合には、日本において従事しようとする業務と同種の業務に外国において従事した経験を有すること又は団体型技能実習に従事することを必要とする特別な事情があることが必要とされています。特別の事情があると認められる場合には、教育機関において同種の業務に関連する教育課程を修了している場合などが挙げられています。
介護分野の技能実習2号を修了した場合には、ある程度の日本語を理解しできるのが中将であるため、必要な技能・日本語水準を満たすとみなされ、試験なしで特定技能1号に移行できます。
特定技能は、特に国内人材を確保することが困難な産業分野で、一定の専門性や技能がある外国人を受け入れることを目的とした制度です。このような観点から、単純労働をメインにはできないものの、他の在留資格に比べて、就労可能な範囲は広く、単純労働を含む業務を行うことができます。具体的には、特定技能1号の外国人は、身体介護等の業務、例えば入浴、食事、排せつ、衣服着脱、移動の介助などに従事することができます。逆に、認められない業務としては、訪問介護があります。
特定技能外国人は、一定の専門性や技能がある外国人人材を前提としていることから、受け入れ後すぐに就労開始後すぐに一人夜勤なども可能です。もっとも、一定期間はほかの日本人職員とチームで介護を行う、介護技術習得の機会を提供するなど、受入れ施設への順応をサポートすることが必要です。
特定技能1号を認められる一つのルートとして、技能試験と日本語能力試験に合格することが必要です。必要とされる日本語の能力は、日本語能力試験N4以上になります。また、介護日本語評価試験に合格することが必要必要です。これは、介護現場で実際に使用される日本語の能力をチェックする試験になります。技能試験としては、介護技能評価試験で求められる技能水準を満たしているかどうかがチェックされることになります。レベルとしては、「介護業務の基盤となる能力や考え方等に基づき、利用者の心身の状況に応じた介護を自ら一定程度実践できるレベル」が問われます。
特定技能の在留資格を得るもう一つの方法としては、介護福祉士養成施設を修了するという道もあります。
特定技能の外国人を雇用する事業所は外国人を直接雇用する必要があり、次のような条件を満たすことが必要です。
1 訪問系のサービスを除く、介護などの業務を行うこと
外国人が従事する業務が、身体介護やこれに付随する支援業務(レクリエーションの実施、機能訓練の補助等)であり、訪問介護を提供する業務を含まないものでなければなりません。また、外国人を受け入れる事業所が、介護等の業務を行うものであることが必要です。
次の表で白くなっている事業所と、緑になっている事業所の一部が対象となります。
介護分野の1号特定技能外国人を受け入れる対象施設について|厚生労働省
2 特定技能1号の人数が日本人等の常勤介護職員の人数以下であること
特定技能1号の人数には制限があることに注意が必要です。
3 介護分野における特定技能協議会に加入すること
初めて特定技能1号外国人を雇用する場合には、特定技能1号外国人を初めて雇用した日から4ヶ月以内に介護分野における特定技能協議会への加入しなければなりません。
4 特定技能1号外国人への支援体制を構築すること
法律で定められた支援を行う体制を構築することが必要になります。もっとも、支援を登録支援機関にすべて委託することも可能です。
1号特定技能外国人を雇用する場合、受入れ機関は実施する支援について、1号特定技能外国人計画書という支援計画書を作成する必要があります。受入れ機関が、支援については登録支援機関に全部委託することが可能です。
支援計画に記載が必要な事項には、次のようなものがあります。
① 事前ガイダンス
在留資格認定証明書交付申請前又は在留資格変更許可申請前に、
・労働条件
・活動内容
・入国手続
・保証金徴収の有無
等について、対面・テレビ電話等で説明
② 出入国する際の送迎
・入国時に空港等と事業所又は住居への送迎
・帰国時に空港の保安検査場までの送迎・同行
③ 住居確保・生活に必要な契約支援
・連帯保証人になる・社宅を提供する等
・銀行口座等の開設・携帯電話やライフラインの契約等を案内・各手続の補助
④ 生活オリエンテーション
・円滑に社会生活を営めるよう日本のルールやマナー、公共機関の利用方法や連絡先、災害時の対応等の説明
⑤ 公的手続等への同行
・必要に応じ住居地・社会保障・税などの手続の同行、書類作成の補助
⑥ 日本語学習の機会の提供
・日本語教室等の入学案内、日本語 学習教材の情報提供等
⑦ 相談・苦情への対応
・職場や生活上の相談・苦情等について、外国人が十分に理解することができる言 語での対応、内容に応じた
必要な助言、指導等
⑧ 日本人との交流促進
・自治会等の地域住民との交流の場や、地域のお祭りなどの行事の案内や、参加の補助等
⑨ 転職支援(人員整理等の場合)
・受入れ側の都合により雇用契約を解除する場合の転職先を探す手伝いや、推薦状の作成等に加え、
求職活動を行うための有給休暇の付与や必要な行政手続の情報の提供
⑩ 定期的な面談
・支援責任者等が外国人及びその上司等と定期的(3か月に1回以上)に面談し、労働基準法違反等があれば通報
・支援責任者及び支援担当者の氏名及び役職等
・支援の実施を契約により他の者に委託する場合の当該他の者の氏名及び住所等
・登録支援機関(登録支援機関に委託する場合のみ)
特定技能の場合の在留資格の申請に必要となる書類は、他の場合に比べて比較的多くなります。
申請人である外国人に関して必要となる申請書、技術水準や日本語能力の水準を示す書類、報酬に関する説明書、雇用契約書の写し、雇用の経緯にかかる説明書、徴収費用の説明書、支援計画書などの他、受入れ機関に関する書類は、法人の場合と個人事業主の場合、初めて特定技能労働者を受けれるのか否か等によっても異なり、加えて、外国人労働者が就労することになる分野に関する必要書類も分野ごとにさまざまです。
申請してから審査に時間がかかる場合もありますので、早めに準備を進めることをこころがけましょう。
特定技能1号として外国人が働ける期間は5年間と限られています。しかし、技能実習1号・2号・3号と合わせれば10年間の就労が可能となりますし、介護福祉士試験に合格すれば、在留資格「介護」で働けるようになり、ここには期間制限はありません。
技能実習を経て特定技能に移行する場合には、戦力となるにはま時間がかかりますが、じっくりと関係を深めて教育もできることから、長期的な人材活用という観点からは、こちらの方が好ましいというケースもあり得ます。
このように考えると、介護分野で外国人を活用するためには、中長期的なキャリアプランの設計が重要であることがおわかり頂けるでしょう。
特定技能から在留資格「介護」へ移行するためには、介護福祉士の資格取得が必要となりますが、介護福祉士の国家試験を受験するためには、3年間の実務経験があることと、実務者研修を修了していることが要件になります。3年間の実務経験の他に試験までの日数や登録にかかる日数も考慮しなければなりませんから、在留資格「介護」に移行するには4、5年くらいはかかると考えておいた方がよいでしょう。
技能実習から特定技能を経て在留資格「介護」を目指す場合には、技能実習2号を良好に修了して特定技能に移行した後、いかにスムーズに介護福祉士資格取得できるかが勝負となります。