外国人が日本で労働する場合には、日本人の場合のように、企業と労働者間で合意ができ、それが労働基準法といった強行法規に反しなければよい、というわけにはいきません。外国人が日本で就労するには、この他に、担当する仕事の内容に即したビザを取得することが必要になります。
ビザ、正確には在留資格のことですが、「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」
つまり、会社経営者や会社員、個人事業主などの立場で働くことを可能とするビザを一般に就労ビザと呼んでいます。
ビザの中には、身分系ビザといって、永住者、定住者、日本人の配偶者など、その人の身分に基づいて付与されるビザがあり、これらのビザの中には、特に制限なく就労が認められるものもあります。これらは、いわゆる就労ビザとは異なります。
身分系ビザ以外のビザは、基本的にその外国人が日本で行う活動に応じて付与されるものですが、すべてが就労を可能とするものではありません。例えば、留学ビザでは、当然には就労はできず、資格外活動許可を得て、例外的に週28時間の範囲内で、就労することが認められるという仕組みになっています。
身分系以外のビザで、就労を可能とするビザが就労ビザですが、その種類は多様です。実際に行う仕事の種類によって必要となるビザが異なり、またそのビザで担当できる業務も限定されているので、間違いのないビザを選択することが重要になります。
具体的には、就労ビザには次のようなものがあります。
・技術・人文知識・国際業務
・特定技能
・技能実習
・介護
・企業内転勤
・経営・管理
・技能
・興行
・教育
・研究医療
・芸術
・宗教
・報道
・法律・会計事務
・教授
これらの中で、もっとも代表的な就労ビザは「技術・人文知識・国際業務」ビザ、通称「技人国ビザ」で、これを指して就労ビザということもあります。
技人国は、その外国人の学歴や職歴と業務内容との間に関連性があることを要件とするビザで、
外国人本人の専門的な知識やスキル、感受性を業務に活かすことを想定しています。
典型的には、機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者等がこれにあたります。
在留期間は5年、3年、1年または3カ月です。
技術・人文知識・国際業務のそれぞれの具体的な内容を見ていきましょう。
技術分野…理学,工学その他の自然科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務
在留資格について規定する入管法の条文によると、このような表現になりますが、これだけではわかりにくいですね。
具体的には、「技術」という言葉のイメージ通り、調査研究、システムエンジニア、プログラマー、精密機械等の設計・開発といった技術開発、CAD・CAEを使用する業務、機械工学の知識を使う技術開発、情報処理の知識を使うデータベース構築などの業務があります。
人文知識分野…法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務
こちらは、会計業務、営業、法律関係業務、教育機関を除く教育、企画業務、総務、貿易事務、
コンサルティング業務、マーケティング支援業務などがあります。
国際分野…外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務
通訳業務,翻訳業務,語学教師,海外取引業務,商品開発などになります。
法務省の定義については下記でご確認いただけます。
それでは、技人国ビザを前提に、ビザ取得のために必要な要件を見ていくことにしましょう。
ビザを取得・申請するための要件はかなり細かく定められており、
外国人本人がクリアすべき要件と、企業側に要求される要件の双方があります。
まずは、外国人側の要件を見てみましょう。
外国人の側について問題となるのは、学歴要件と職務内容についてです。
技人国ビザは、外国人が学んできた知識やこれまでに得てきた経験、自国の文化や言語に関する知識を活かして
日本で就労することを想定したビザです。
従って、専門的知識を要する業務や外国人の学歴・職歴やその出身国の文化などと関連する業務であることが必要です。
そこで、まず、学歴に関する要件として、次のいずれかの要件を満たすことが原則として必要です。
・本国の大学・短大・大学院を卒業
・日本の大学・短大・大学院を卒業
・日本の専門学校を卒業
海外の大学卒の場合は「日本の大学卒に相当する」ことが必要であり、外国では教育制度が日本とは異なりますから、
海外の学校を卒業した外国人が当然に「日本の大学卒に相当する」に該当するとは限りません。
この要件については、卒業証書等、学位を示す証拠を示す必要があります。
専門学校については、外国の専門学校では、この要件を満たすことにはならず、また、日本の専門学校であっても、
修了者に対して、文部科学大臣が認めた「専門士」「高度専門士」の称号が付与されるものでなければなりません。
ただし、特例として、次の2つの例外があります。
まず、一定以上の実務経験がある場合で、「技術・人文知識」では10年以上、「国際業務」では3年以上の実務経験があれば、
この要件をクリアすることになります。注意すべき点としては、この例外要件の証明の方法としては、
在籍していた会社からの在籍証明書が用いられることです。複数の会社にまたがっていてもかまいませんが、
会社が非協力的で、在籍証明書を出してもらえない場合には、この要件の証明が困難となってしまいます。
もう一つは情報処理技術関連の資格があることです。
情報処理に関する技術又は知識を要する業務に従事しようとする場合で、一定の情報処理技術に関する試験に合格し、
又は情報処理に関する資格を有していれば、上記のような学歴は不要とされます。
例えば、情報処理安全確保支援士試験、ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、
第一種情報処理技術者認定試験などがこれに当たります。その他、中国、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、台湾、
マレーシア、タイ、モンゴル、バングラデシュ、シンガポール、韓国の一定の資格についても、認められる場合があります。
目指すカテゴリーごとによって必要となる学歴は違ってきます。
技術カテゴリーの場合には、海外大学を卒業した方は日本で行う業務内容と学歴の関連性がより強く求められる傾向にあります。
就労ビザ取得のために一律に一定の日本語能力が必要とされている訳ではありません。
要求されるレベル感は、その労働者が担当する業務内容によっても異なり、
「技人国」だからみな同様に考えられるというものでもありません。
例えば、エンジニアやプログラマーなどの場合であれば、基本は技術面にあり、他とのコミュニケーションが職務の中心ではありません。従って、同僚や、共に仕事を進めて行く人々と、コミュニケーションが取れる程度の日本語ができていればよいでしょうが、
人文知識、いわゆる文系の分野では、自ら企画を立てて提案したり、営業をしたりするわけですから、よりハイレベルな日本語の能力が必要となります。更に、通訳・翻訳などといった国際業務においては、高度の日本語能力や、更に通訳・翻訳技術を支える拝啓となる知識等も問われることになります。
技人国ビザにおいては、労働者を採用する企業側についても、満たすべきポイントがあり、
また、企業の状況によって、ビザの申請手続において提出すべき書類が異なり、これによって手続の大変さも違ってきます。
外国人労働者の受ける賃金の水準は、同様の業務を行う日本人従業員と同等かそれ以上でなければならないとされています。
更に、外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的な取扱いをしていないことが必要とされます。
日本人従業員同士の間でも、正社員と期間雇用の労働者との間で、労働条件に不合理な差別があってはならないとされていますが(同一労働同一賃金の原則)、外国人との間でも、外国人であることを理由に不合理な差別がなされてはならないことになっています。
また、外国人労働者が日本で就労する場合には各種労働法規は原則として適用されますから、当然、最低賃金の水準はクリアしていなければなりません。
企業の経営状態が良好であるかも、ビザが取得できるかに影響します。労働者を受入れる企業側の経営が安定していなければ、
外国人雇用を認めたとしても、その後、経営の不安定に起因したさまざまな問題が起こりかねません。
そこで、外国人を安定して雇用できるか否かが問われることになるのです。
この点は、ビザを申請等する場合に必要となる書類に多寡にも大きく影響します。
この観点から、企業は4つのカテゴリーに分けられています。
次のいずれかに該当する機関
日本の証券取引所に上場している企業
保険業を営む相互会社
日本又は外国の国・地方公共団体
独立行政法人
特殊法人・認可法人
日本の国・地方公共団体認可の公益法人
法人税法別表第1に掲げる公共法人
高度専門職省令第1条第1項各号の表の特別加算の項の中欄イ又はロの対象企業(イノベーション創出企業)
その他一定の条件を満たす企業等次のいずれかに該当する機関
前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表中、給与所得の源泉徴収合計表の源泉徴収税額が1,000万円以上ある団体・個人
在留申請オンラインシステムの利用申出の承認を受けている機関(カテゴリー1及び4の機関を除く)
上記のいずれにも該当しない団体・個人
ざっくりいえば、カテゴリー1及び2に属する企業では、提出する必要のある書類等も大幅に緩和されているのに対して、
カテゴリー3及び4の場合には、要求される資料はかなり多くなり、立証の負担が重くされています。
技人国ビザは、外国人が学んできた知識やこれまでに得てきた経験、自国の文化や言語に関する知識を活かして
日本で就労することを想定したビザですから、労働者が学んできた知識が、企業の実務において活かせることが想定されています。
そこで、大学や専門学校で学んだ知識と、その労働者が企業で担当する業務内容に関連性が認められなければなりません。
この関連性の判断の厳しさは、大学の場合と専門学校の場合とで差があり、
大学での専攻と従事する業務の関連性については、比較的緩やかに判断されますが、
専門学校につきましては、関連性が厳格に審査される傾向が見られます。
技人国ビザは、外国人がその修得した技術等を活かして安定的継続的に日本で仕事に従事することを想定したビザになります。
従って、労働契約が非正規であるアルバイト、パートタイマーといった形の場合には、100%不可能というわけではありませんが、
会社の状況によってはビザが出ないことがあります。
就労ビザを申請するためには、上記の基本的な要件のみではなく、
様々な注意点があります。本コラムでは特に注意していただきたいポイントを抜粋して解説します。
就労ビザを取得するプロセスは、その労働者が海外にいる場合と、既に日本にいる場合とで、流れが異なります。
この場合には、在留資格認定書交付申請をすることになります。
ご説明してきた通り、技人国ビザを取得するためには、労働者が一定の学歴を有し、
それが労働者の担当する職務と関連性あるものでなければなりません。
学歴については、卒業証書を始めとした裏付けとなる資料を基に検討しましょう。
その労働者が大学等に該当する学校を卒業しているかどうか、具体的な専攻は何か、などを確認します。
そして、その学歴と、その外国人労働者に担当させようとする業務内容の関連性の確認です。
技術カテゴリーの場合には、海外大学を卒業した方は日本で行う業務内容と学歴の関連性がより強く求められる傾向にあること、
専門学校卒の場合には大学卒の場合に比べてより厳しく関連性がチェックされる傾向にあることなども踏まえて、
慎重に検討することが必要です。また、技人国ビザでは、いわゆる単純労働は認められていないことにも留意すべきです。
こうした検討を経て、雇用契約の締結に至ります。
雇用契約がビザの取得に先行することに違和感を覚える方も多いのですが、これは、ビザの申請を行うためには、
雇用契約がなされていることが前提となっているためです。
もちろん、ビザが取得できるという保証はありませんから、雇用契約の中に、ビザの取得ができないことを解除条件とする、
すなわち、ビザが得られない場合には契約は効力を失うといった条項を置くなどして、対応できるようにしておくことも必要になります。
このような検討・準備を経て、在留資格認定証明書の交付申請を行うことになります。
労働者が既に日本にいる場合には、通常、なんらかのビザで日本に在留していることが多いでしょう。
そこで、まず現在の在留資格の確認を行うことが必要です。
そもそも就労が認められていないビザである場合や、ビザを持っていない場合もあり得ます。
この点の確認が不十分なまま雇入れを行えば、不法就労助長罪に問われることにもなりかねません。
在留資格に問題がなければ、それと就労させることを予定している業務との対応、関連性の確認に入ります。
現時点で有している在留資格と、担当業務が対応していなければ、在留資格の変更申請を行わなければなりません。
例えば、国内にいる外国人を雇い入れる場合、その者が留学ビザで日本にいるといった場合も多いでしょう。
この場合には、留学ビザから技人国ビザへの変更申請をすることになります。
その者の学歴と、担当させる業務についての関連性が要求される点は、外国人が海外にいる場合と同様です。
その上で、雇用契約の締結を行い、在留資格変更申請ということになります。
このように、申請に至るまでに準備を行う必要があること、
申請をしても直ちにビザが発せられるわけでもないことを考えると、ギリギリの時期になって行うということはお勧めできません。
申請してからビザが出るまで、定まった期間があるわけではありませんが、
通常は短くても1ヶ月、ときには3ヶ月くらいかかることもあります。
また、時期により入管の混み具合が異なり、これによる影響もありえます。
全国の地方出入国在留管理局における在留審査の処理期間の平均日数も公表されていますので、これも参考にすべきでしょう。
また、ビザの取得手続そのものではありませんが、外国人の雇用手続は、ビザを取得すれば終わり、というものではありません。
日本人労働者の場合と同じように、労災保険、社会保険加入の手続も必要となりますし、所得税や住民税などの手続が必要となる場合もあります。
これまでご説明してきた主な要件の他にも、実際のビザ申請の局面では、さまざまな点がチェックされます。
例えば、その会社でそのような業務をさせる必要性があるか、十分な業務量があるのかといった点もチェックの対象になります。
外国人をホテルが通訳として雇用しようというときに、その外国人の使える言語と、ホテルを実際に利用する客層の言語が対応していなければなりません。中国人が多く訪れるホテルにスペイン語の通訳を雇い入れる必要はないでしょう、といったことになります。また、専門技術を持つ外国人を雇う以上、その会社には一定の規模が求められ、あまりにも小規模な場合には、この点を理由にビザの申請が通らない場合もあります。
また、日本人雇用の場合には、メインの業務の他に、「ついでにこれも担当してもらおう」といったことが起こりがちですが、外国人の場合には、経営・管理ビザを取得して店舗の経営を任せようと言う場合に、人手が足りないときには接客もさせるなどということはできません。ビザが想定している業務と、実際に会社が担当させようとしている業務にズレが出てくると、それが理由でビザが認められないといいうことも出てくるのです。
更に、ビザの申請に至るまでの外国人の生活に問題がなかったかが問題が生じる場合もあります。典型的な例は、留学生のバイトのしすぎの問題があります。留学生は、資格外活動許可をえて、週28時間の範囲内でアルバイトをすることができます。この28時間という縛りは、かなり厳格です。バイトに熱心なあまりこの時間を超えて勤務してしまっていた、などという場合には、これを理由として在留資格変更申請が通らないといったことがありえます。会社側で、申請前に、このような点も十分に確認しておくべきでしょう。
外国人雇用において、不可欠な知識が、不法就労助長罪等の刑事罰に関する規定です。
不法就労助長罪については、出入国管理及び難民認定法73条の2に規定されており、「
事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者」等につき、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が規定されています。
ここでいう「不法就労」には、次のような場合があります。
例)密入国した人や在留期限の切れた人が働く
退去強制されることが既に決まっている人が働く
例)観光等の短期滞在目的で入国した人が許可を受けずに働く
留学生や難民認定申請中の人が許可を受けずに働く
例)外国料理のコックや語学学校の先生として働くことを認められた人が工場で作業員として働く
留学生が許可された時間数を超えて働く
この不法就労助長罪で注意しなければならないのは、使用者が、外国人を雇用しようとする際に、その外国人が
不法就労者であることを知らなかったとしても、在留カードを確認していない等の過失がある場合には、処罰は免れないことです。
外国人労働者のビザの問題を軽く見てはいけません。
制度の特徴を理解して正しく利用していけば、外国人雇用は企業にとって大きなメリットになり得ますが、
他方で、理解が不十分なまま漫然と行っているような場合には、刑事責任を問われたりすることもあるのです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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