企業が経営を行う上で、何もルールが存在しなければ、取引における立場や組織規模の優位性を利用することで、強制的に自社に有利な契約を結ぶことも可能でしょう。しかし、そのような状況を野放しにしたのでは、企業間の自由な競争が生まれず、ひいてはサービスの充実・低価格化なども図られず、国民が害される結果となってしまいます。
そこで、このような企業の振る舞いを規制する法律として、独占禁止法(独禁法)・下請法が規定され、自由競争を害するような企業行動を取り締まっています。
特に日常的な取引とも関連し、重要なのが、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」、それを受けて規制を具体化した下請法です。
注意すべきなのは、下請法には人為的な取り決めが多く、常識的感覚だけで対応したのでは、知らないうちに違反となってしまう、ということも少なくないことです。
また、独占禁止法・下請法の違反行為には、罰則の他、公正取引委員会などにより「勧告」「公表」「排除措置」などが課される場合があり、企業の重大な経済的・社会的信用の損失に繋がります。
独占禁止法
企業や企業間でその優位な立場を利用した競争の制限を抑制し、公正かつ自由な競争の実現を目的とした法律が、独占禁止法です。
独占禁止法では主に、下記の行為を禁止しています。
不当な取引制限
複数の事業者による、談合などの競争制限合意を禁止しています。
- カルテル(価格・数量・市場分割)
- 入札談合
- 事業者団体による価格・数量決定
私的独占
市場を独占している立場にある事業者が、その立場を利用して競争を制限する行為を禁止しています。
排除型私的独占
事業者が単独あるいは共同で、不当な低価格販売やリベートを用いて、競争相手や新規参入業者を市場から排除する行為
支配型私的独占
事業者が単独あるいは共同で、株式取得などにより、他の事業者の事業活動に制約を与え、市場を操作する行為
競争制限的な企業結合の禁止
競争関係にある複数の事業者が企業結合(株式保有、役員兼任、合弁、共同新設分割・共同株式移転、事業受け等)し、一定の取引分野の競争を制限する行為を禁止しています。
不公正な取引方法
その他、下記の行為が禁止されております。
- 共同の取引拒絶
- 不当廉売
- 再販売価格の拘束
- 優越的地位の濫用
- 排他条件付取引
- 拘束条件付取引
- 取引妨害
下請法
親事業者(発注元)が下請け(発注先)よりも立場が上であることを利用し、下請け先に不当な要求をすることを規制し、公平な企業間取引の実現を目的とした法律を、下請法といいます。
下請法は独占禁止法を補助する目的として作られました。具体性がある分、通常の企業活動への影響は大きいと言えます。
下請法では主に、下記の行為を禁止しています。
受領拒否
下請け業者に責任がないのに、納品物の受領を拒否することはできません。
下請代金の減額
下請け業者に責任がないのに、発注時の金額から一方的に減額をすることは禁止されています。
下請代金の支払い遅延
発注元は、発注した品を受領した日から60日以内に支払わないといけません。
返品
下請け業者に責任がないのに、一方的に下請け業者に返品する行為は禁止されています。
ただし、不良品があった場合等一定の場合には、例外的に受領後6ヶ月以内に限った返品が認められています。
買いたたき
発注する物品や役務に対し、通常一般的に支払われる対価に比べ、著しく低い代金で発注することを買いたたきと行為として禁止されています。
報復措置
下請け業者が、公正取引委員会や中小企業庁等に報告したことを理由に、その下請け業者に対して、取引の停止や数量の削減する行為を禁止しています。
購入の強制・役務利用の強制
正当な理由(品質を維持するため)がないのに、発注元が指定する品(製品・原材料等)、役務(保険・リース等)を購入させることを禁止しています。
有償支給原材料等の対価の早期決算
下請け業者が、発注元から仕入れている原材料を加工し、製造している場合、下請け業者への支払日よりも早く、発注元が原材料の支払いを下請け業者に請求することを禁止しています。
割引困難な手形の交付
発注元が、支払金を手形で支払う際、一般の金融機関(銀行や信用金庫)など、一般の金融機関では割引を受けることが困難な手形を交付して支払うことは、下請け業者の不利益につながるため、禁止されています。
不当なやり直し、給付内容の変更
下請け業者に発注を依頼した後に、発注元の都合で発注内容の変更を下請け業者に依頼するにあたって、変更に伴う費用を下請け業者に負担させる行為を禁止しています。
不当な経済上の利益の提供要請
発注元が自己の都合のために、下請け業者に金銭や役務など不当な利益を提供させることを禁止しています。